なぜ、政府支出を増やすことが経済成長に繋がるのか〜成田悠輔氏の「情弱ビジネス」発言に反論する【池戸万作】
■「経済成長したから政府支出が増えた」論への反論
次に番組内でも取り上げた、25年間の世界各国の名目経済成長率と政府総支出増加率の相関図について詳しく解説していきたい。
この相関図を見れば、政府支出を増やした国ほど、名目経済成長率も高まっていることが綺麗に分かる。また、この相関図のポイントとして、青丸で囲った範囲のように、「政府支出を増やしたが全く名目経済成長しなかった国」は存在せず、また逆に赤丸で囲った範囲のように、「政府支出を増やさなかったが大幅に名目経済成長した国」も存在しないことが挙げられる。ちなみに、赤丸の範囲に比較的近い政府支出をあまり増やさずに名目経済成長した国はブルネイやガボンのような資源国で、エネルギーの輸出で持って経済成長させている国である。
こうした相関図の見方に対する反論として、番組内でも成田悠輔氏も述べていたが、「経済成長したから、税収も増えて、政府支出も増えたのだ」と因果関係を逆に捉える意見も根強い。それに対する再反論を行っておこう。
まず、番組内でも述べたが、国には通貨発行権があり、政府支出はインフレ率が許容する範囲内で自由に増やすことが出来る。だから、決して税収の制約は受けないのである。経済成長したから税収も増えて政府支出も増えたと述べる論者は、いわゆる「税は財源である」という考え方に囚われていると言えるであろう。国には通貨発行権があるから、税は財源ではないのである。税金とは格差是正やインフレ抑制のために、政府が社会からお金を間引くために取るものなのである。
また、経済成長したから政府支出が増えた論者は、リーマン・ショックやコロナ禍といった経済危機の時に、世界各国の政府が支出を増大させた現実も見ていないことになる。経済危機発生時には当然経済成長率は大幅にマイナスとなるが、政府支出は世界各国ともに莫大に増加させている。こうした実態からも、経済成長とは関係なしに、政府支出は増大できることが分かる。
これとは反対に、ニューディール政策で知られるルーズベルト大統領は、それまで経済成長していたのにも関わらず、1937年には一転して歳出削減、いわゆる緊縮財政政策に舵を切った。経済成長していながら政府支出を減らした実例である。ちなみに、その緊縮財政によって、1937年~38年にはルーズベルト不況を引き起こしたことでも知られる。このルーズベルト不況こそ、政府支出を増やせば経済成長することの反対として、政府支出を減らせば経済成長しなくなるということを示した格好の例であると言えよう。そうした緊縮財政によるルーズベルト不況が、1997年から26年間も続いているようなものが我が国日本の経済状況なのである。
さらに、経済成長したから政府支出が増えた論者の致命的な弱点は、何故、経済成長が起きるのかを説明出来ていない点にある。経済成長がスタートであるかのように語るが、実は彼らは経済成長がどういうメカニズムで発生するのかを理解していないのである。恐らく、冒頭でも述べたようなイノベーションや生産性を向上させれば経済成長するとでも思っているのであろうが、それでは経済成長するとは限らないということは先ほど述べた通りである。何度も言うが、経済成長とはGDP=個人消費+民間投資+政府支出+純輸出の計算式が示す通り、支出によって発生することなのである。
以上のように、政府支出とは経済成長率に関係なく自由に増減できるものであるから、相関図は経済成長したから政府支出が増えたのではなく、政府支出が増えたから経済成長したと因果を捉えるのが妥当な読み方であると言えよう。